アトピー性皮膚炎とは、かゆみのある湿疹ができ、よくなったり悪くなったりを繰り返す慢性的な皮膚炎です。
原因は免疫の過剰反応で、免疫が過剰に反応してしまう理由には、アレルギー体質であることや、皮膚のバリア機能異常があります。
乳児から成人まで、非常に多くの方がアトピー性皮膚炎に悩んでいます。重症度は人によって異なり、ごく軽い症状から、日常生活に支障をきたすレベルまで様々です。
ハウスダストやダニ、カビ、汗や化学物質などは、皮膚への刺激になります。これらの刺激を極力減らし、普段から保湿を心がけることが大切です。
外用療法
ステロイド外用薬
ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎の炎症を制御するためにとても有効な薬です。ステロイド外用薬には弱いものから強いものまで分類されており、皮疹の重症度や部位によって塗る薬のランクが変わってきます。
ステロイド外用薬についてはその副作用を心配される方もいらっしゃいますが、正しい使い方をしていれば副作用を引き起こすことはありません。
一人ひとりに合った強さのステロイド外用薬を医師が判断して処方しています。
新しい冶療薬 外用薬
アトピー性皮膚炎の新しい冶療薬としてJAK阻害外用薬であるコレクチム
®軟膏や、PDE4阻害外用薬であるモイゼルト
®軟膏があります。
JAK阻害外用薬 コレクチム®軟膏
アトピー性皮膚炎の治療に使われているステロイド外用薬とは異なる作用で症状を和らげる新しいお薬です。
アトピー性皮膚炎の病態には、サイトカインと呼ばれる物質が関与しています。サイトカインが、免疫細胞や神経にある「受容体」という受け皿に付くと、JAK経路が活性化され、炎症やかゆみを引き起こします。
細胞内のJAK経路をブロックすることで、皮膚の炎症やかゆみを抑え、アトピー性皮膚炎を改善します。
コレクチム
®軟膏は安全性が高いお薬です。長期使用による、血管拡張や、皮膚が薄くなることがありません。
コレクチム
®軟膏は小児(2歳以上)から使用することができます。
PDE4阻害外用薬 モイゼルト®軟膏
モイゼルト
®軟膏も、ステロイド外用薬とは異なる新しい作用を持つ塗り薬です。
PDE4は、炎症細胞で炎症を抑えるシグナルを分解し、炎症を増加させてしまう酵素で、アトピー性皮膚炎の方の炎症細胞で増えていることが知られています。
モイゼルト
®軟膏はPDE4阻害することで、炎症を抑えるシグナルを上昇させて、アトピー性皮膚炎の炎症とかゆみを改善します。
モイゼルト
®軟膏は小児(2歳以上)から使用することができ、使用時にほてりやひりつき感、しみるなどの症状が出ることがほとんどないと言われています。
内服療法
抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)
ヒスタミンとは、アレルギーの原因物質(アレルゲン)が体内に入ると免疫が反応して、放出される物質です。アトピー性皮膚炎での皮膚の痒みの原因と考えられています。この作用を抑える薬が抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)です。
新しい冶療薬 内服薬
新しいアトピー性皮膚炎の飲み薬、JAK阻害内服薬であるオルミエント
®や、リンヴォック
®、サイバインコ
®があります。
JAK阻害内服薬 オルミエント®
皮ふの炎症やかゆみは、炎症を引き起こす物質「サイトカイン」の働きによっておこります。オルミエント
®は、このサイトカインの働きを阻害しさらにサイトカイン自体の増加も抑えることで、皮ふの炎症やかゆみの根本をブロック。既存治療で十分な効果が得られなかった方にも効果が期待できます。15歳以上のアトピー性皮膚炎の方が対象となります。
アトピーの治療薬と言えば基本は塗り薬が中心となりますが、それだけでは改善しない重症の方に選択肢が増えることになります。
JAK阻害内服薬 リンヴォック®
リンヴォック
®もJAK阻害剤の飲み薬です。サイトカインの産出を制御することで、皮膚の炎症やかゆみを抑え、アトピー性皮膚炎を改善します。
オルミエント
®では小児への適応がありませんので、小児の場合は同じ働きのあるリンヴォック
®が適応となります。
JAK阻害内服薬 サイバインコ®
サイバインコ
®もJAK阻害剤の飲み薬です。サイトカインの産出を制御することで、皮膚の炎症やかゆみを抑え、アトピー性皮膚炎を改善します。12歳以上のアトピー性皮膚炎の方が対象となります。ほかのJAK阻害薬と違い、通常用量から減量したり増量したりできる点が特徴的です。
新しい冶療の選択肢 注射療法
2018年4月に注射薬デュピクセント
®が、2022年8月には注射薬ミチーガ
®が、そして2022年9月には注射薬アドトラーザ
®発売され、アトピー性皮膚炎を注射で治す新しい治療が可能となりました。
デュピクセント®
デュピクセント
®は、2018年に承認されたアトピー性皮膚炎の皮疹やかゆみの原因をブロックする注射薬です。
今までの治療で十分な効果が得られなかったアトピー性皮膚炎の方に対して、高い改善効果と安全性を示しており、これまでにない優れたアトピー性皮膚炎治療薬であると考えられます。
効果は大変期待できますが、誰でも使用できる薬剤ではありませんし、価格も高額になります。しかしその高い治療効果から、大変喜ばれている方が多い治療法です。
デュピクセント®の有効性
アトピー性皮膚炎の重症度評価において、投与前から
75%の改善が見られたという患者が、
68%もいたという結果が出ており、他の治療法に比べてデュピクセント
®の優越性が証明されています。
投与方法
デュピクセント
®は1本の注射に300mgが含まれており、これを2週間に1度注射します。初回のみ1回2本600mgを注射し、それ以降は1回1本300mgの注射を継続していきます。
治療可能な方
@15歳以上の方
Aアトピー性皮膚炎の症状が中等度から重症の方
B外用薬(ステロイド外用薬など)を一定期間投与しても、充分な効果が得られなかった方
Cデュピクセント
®治療開始後も、外用治療をしっかり併用できる方
治療費
デュピクセント
®は保険適応しています。
保険3割負担の方で、初回の(2本)約39,000円、2回目以降(1本)約19,000円です。
高額療養費制度が適応される事があります。
ミチーガ®
ミチーガ
®はかゆみを引き起こすIL-31というサイトカインの働きを阻害してかゆみを抑える働きをします。IL-31は末梢神経に作用して、かゆみを感じやすくする働きを有する物質ですが、ミチーガ
®を使用するとIL-31が末梢神経に作用しにくい状態になり、かゆみや炎症を抑える効果が期待できます。
投与方法
ミチーガ
®は1本60mgを4週間の間隔で皮下注射します。
治療可能な方
基本的にはデュピクセント
®と同じですが、デュピクセント
®との違いは、13歳から投与ができること、月1回の接種で良いことなどがあります。
治療費
ミチーガ
®は保険適応しています。
保険3割負担の方で、1本約35,000円です。
高額療養費制度が適応される事があります。
アドトラーザ®
アトピー性皮膚炎において、重要な働きをするのがTh2細胞というリンパ球です。
Th2細胞は、IL-13やIL-4、IL-31というサイトカインを生み出すことで、かゆみを引き起こします。
これらサイトカインの作用を抑えていく注射薬として、
IL-4、IL-13を阻害する
デュピクセント®
IL-31を阻害する
ミチーガ®
これらのシグナルが伝わる経路を阻害するJAK阻害薬に
オルミエント、リンヴォック、サイバインコ があります。
アドトラーザ®はIL-13と結合し作用を阻害します。
投与方法
アドトラーザ
®は初回4本、その後2週間隔で2本を皮下注射します。
治療可能な方
基本的にはデュピクセント
®と同じです。
治療費
アドトラーザ
®は保険適応しています。
保険3割負担の方で、1回目約55,000円、2回目以降1回分約35,000円です。
高額療養費制度が適応される事があります。